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砂糖菓子には相応しくないけれど

「おい」
「枕が喋るな」
「あのなあ」
 肘掛に肘をつき、膝にしなだれかかる男の髪を引く。
 彼は床に直接座り込んで足を投げ出しているが、視察用、あるいは日常生活用に簡略化されたものとはいえ衣装が汚れることを恐れなくてもよいのだろうか。彼を床に引き倒そうとして、いっそ神経質なほど怒鳴り散らしてきたこともあったように思うのだが……まあいい。
「痺れた」
 文句を言うと、伏せられていた瞼が薄く開いた。
 顔をずらして無言で見上げてくるが、だからといって起き上がろうとはしない男に、鼻から息を吹く。
「わかりにくいんだよ、てめえは」
「何が」
「全部」
(傍にいて欲しいならそうと言え)
 ——という台詞は飲み込んだ。立ち上がれないよう膝を押さえておくなどという実力行使で済ませようとする奴がそんなことを言うはずがない。やつれた頬に手を滑らせる。
「眠れないなら手伝ってやる」
「へえ。どうやって」
「何も考えられなくなりゃいいんだろ」
 告げると、男の唇は大きく歪んだ。瞳が静かに夜の色を宿す。
「面白い」
 やってみな。と、彼は、足の間に手をついて身体を持ち上げてくる。駆け引きのひとつも無い、甘ったるい口付けが今日のヒントだった。『やさしくしてほしい』。しかし彼の両手はすでにこちらの二の腕に爪を立てている。『でも、すこし乱暴にしてもいい』。
(面倒な野郎だ)
 今日こそはこの口から決定的な台詞を言わせてやろう。素直じゃない、と彼は毎度のようにこちらのことを揶揄したが、お前に言われたくないと、いつからか思っていた。