broken arrow

腕が二本あるからいけないのだった

「熱烈だねえ」
 からかいを隠そうともしない声の主をじろりと睨み上げるが、彼の表情は動かない。にやにやと揶揄する笑みを浮かべ続けるだけだ。
「女なんかに興味なんかありませんって面しやがって。なかなか隅に置けねえなァ、色男」
「やめろ」げんなりと手を振り立ち上がった。清掃は行き届いているが、廊下はいつまでも腰を下ろしているための場所ではない。「見てたんだろ。俺は蹴り飛ばされたんだぞ」
 結局、彼女の動作は軽い脅しであり、単にこちらがバランスを崩しただけのことだったが。
「それほど避けようともしなかったくせに」
「……避けたら機嫌を損ねるんだよ」
 顔をしかめて渋々白状すると、傑作だとばかりに大笑される。
「今から尻に敷かれてんのか!」
「うるせえ、ほっとけ」改めて睨みつける。「俺はお前とメッチェンがそうなんだと思ってたよ。なんで違うんだ」
「はあ? なんでって。なんだいきなり」
「そんなのおかしいだろ」と、自分でもわけのわからない主張が転げ落ちる。「コギーが結婚とか言ってるのよりよっぽど変だ。なんでお前ら、なんでもないんだよ」
 男は片方の眉を上げる。
「今からどうにかなる予定なんだよ」
 彼の表情を動かしたのは怒りではなく、困惑だった。決まりの悪い顔をしている。それがまた苛立たしい。戦闘家としてはプロフェッショナルを自称するくせに、なぜ心はそんなにも隙だらけで開けっぴろげで無防備なのか。
「なんだよ。ンなことで、なんでお前に喧嘩売られにゃならん」
「さあ」
 どうしてだろうな、とはぐらかす。お前の見解は間違っている。そう言ってやりたくて、しかしそうしてはならないということも知っていた。……実のところ、間違ってなどいないのだし。
 自分には彼女が必要だ。そして、それとはまったく別に、お前のことも――。
 かぶりを振って思考を打ち消し、もののついでに警告を重ねる。
「面倒だから吹聴すんじゃねえぞ。マギー家の奴ら、そうでなくてもうるせえんだからよ」
「いや、どうせバレるだろ」
「うっせえ」
 吐き捨てて甲板へと向かう。男がついてくる様子はなかった。
 すぐにわかること。そうだろう。だが、それが真実だとしても。
(お前の口からは聞きたくない。それだけだ)
 だがそんな虫のいい話もない。
 ゆえに、告げる気もない。永久に。永遠にだ。

オーサルへのお題は『恋人ですけど、なにか?』です。

お題ひねり出してみた
なんかおーさんコレジャナイ感あるんですけど、彼だってたまにはわがまま言っていいと思います。