broken arrow

フォークとマグカップ

「飽きた」
 誰に訴えるでもなくそう言って、手にしていたニュースペーパーを机の上に放り出した。
 この地で手に入る最新の“島”情報――発行日からすでに一つ季節を跨いだような代物だが、それでもこれが最新号だ。“慢性的政情不安を具体的に表現しました”とでも言いたげな記事で埋め尽くされている。以前に手に入れたものと詳細は違うが、内容を突き詰めればそれですべて説明がつくとしか思えない。しかし、まずはこれをすべて把握しなければならないこともわかっていた。
 知識がなければ戦えない。会議とは戦場だった。
 まったく気が滅入る。
 全身に浸透し停滞する気だるさに身体を預け、机に肘をついた片手で頭を抱えた。
「俺、なにやってんだろう……」
「はい、はい」
 成り行き任せで丸めた背を叩かれて視界が軽く二度ぶれる。喉で低く笑う声を耳にしながらぼんやりと考えることは、おおよそ三種類ほどしかない。そのうちのひとつを思い浮かべる――確か、一歳か二歳上って程度だよな、こいつ?
 年齢ですべてが測れると思っているわけでもないが、それにしたっていつも子供扱いだ。先程、彼の遅い昼食の皿から炙り肉を失敬しておいて何だが(少し睨んできただけでなにも言わなかったし、たいして執着もないのだろう)。
「ごちそうさん」
 多少おざなりにでも、そんな、誰に対してでもない挨拶を欠かさないところなどは、もしかすると「大人」なのか。それとも単に育ちのよさゆえか。空になった食器類を抱えて立ち上がった男の背を見送ることもなく、そんなことばかりを考えていた。
(話の種にもならないな)
 自分の感情だけが引っかかっている、つまらないことだ。
 かかずらっている暇はない。気を取り直し、情報収集を再開すべく机に向き直って気がついた。コーヒーの入ったマグカップが机の上から消えている。お決まりごとの挨拶と聞き流した台詞が耳の中で蘇った。
(俺に言ってたのか、あれ)
 振り向くが、すでに男の姿は影も形もない。
 とりあえずは黙っておいて意趣返し――ついでに皮肉のおまけつきとは、とんだ大人もあったものである。かぶりを振って思考を打ち切り、新しく飲み物を手に入れるべく立ち上がった。