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秘密ばかりが増えてゆく

 会談を申し込む正式な書類が一通――その封筒の内側に、非公式な一言が短く書き綴られていた。「また行く」。魔術学校校長の手になるそれを、無表情で眺める。どうやらこの会談が不成立に終わることは、あちらも予想しているらしい。
 不思議なことに、公的に会うことは断ることができるが、相手が無理矢理やって来るのは止めようがない。
 密会とは、政治的に意味がなく、それでいて最も危険な類の行動である。そこで交わされた言葉には拘束力はないというのに、もしも事実が世に出れば糾弾は避けられない。利点はほぼゼロだと思えるが、いったい自分ごときになんの用件があるというのか。それとも……
 じわりとこめかみが疼いた。寒気に背筋を震わせる。校長がこの手を使ったのはこれが初めてではないと気がついて、更に、前回なにが起こったかも思い出したのだ。
(なにが不満なんだか。妻も子供もいるくせに)
 背と首筋を這った手の熱さまで掘り起こしそうになり、記憶を追いやるように苦々しく目を閉じる。おかげで感覚は閉じ、暴力的な感触は遠ざかったが、代わりに、乱暴に投げつけられた言葉が蘇った。
『ちゃんと見てろ、って言っただろ』
(……うるせぇよ)
 甘えてんじゃねえよクソガキが、と、その一言すら言える余裕がなかったことを静かに悔やんだ。