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残像とグレープフルーツ

 ここしばらくで、どうにも見慣れてしまったにやにや笑いをねめつけながらうなり声をあげた。
「だから、嘘じゃねーっての」
「無理すんなよ。お前に女遊びできるような甲斐性なんざねえのは見りゃわかる」
「そりゃ遊んでないからな。あんたと違って。あーもう、離せ」
 肩に回された腕を振り払おうと身を捩りながら吐き捨てるが、男はしつこくまとわりついてくる。
「へえ? 本気だったんだ? ちなみに何人くらい付き合ったわけ?」
「しつこいな。なんでそんなこと言わなきゃなんねえんだ」
「そりゃ、お前、女と手をつないだことすらなさそうじゃ――」
「それくらいあるわ!」
「……肉親は省けよ?」
「ああもう」
 大きく嘆息し、気分に従って全身を脱力させる。
「あんたが俺をばかにしたいのはわかったが――残念ながら、そーいう経験くらい」
「ねえんだろ?」
 慰めるように背を叩いて茶化してくる男の胸座を、片手でとっさに捕まえた。
 そのまま彼の顔を近くに引き寄せ、勢いに任せてまくし立てる。
「あのなぁ。ハルとは婚約寸前まで行ったし! ヒリエッタのは、事故みたいなもんだが! ティッシはまあ、彼女は酔ってたし、気の迷いだったんだろうが!」
 男は呆れた顔で眉を寄せる。
「それ、最初以外ぜんぜん本気じゃないじゃねえか」
「うっせーな! 他にも、ス――そ、その――」
 その名をどういう風に口にするべきか、思わず口ごもる。サルアの顔にうっすらと笑みが戻った。
「なんだ、ハッタリか」
「――違う」
「ふん? まさか、触らないのが真の愛だとかは言わねえだろ?」
「……」
 どこかでなにかが弾ける音がして。

 ――引きつけていた身体を軽く突き飛ばすと、存外簡単に男は離れていった。どころか、足下をふらつかせて壁にもたれている始末だ。いい気味だ、と舌なめずりをする。その瞬間に男の肩が跳ねた。こんな風に、完全に硬直している彼を見るのはいつぶりだろうか?
「これでもまだ、疑うか」
 限界まで見開かれた目を睨みつけながら鼻を鳴らす。普段は飄々とした雰囲気をほとんど崩さない男の呆けた表情を眺めるのは痛快だった。やり返してやったという充足感が、身体を隅々まで満たしていく。そのままの勢いで一歩だけ距離を詰めた。
「なんとか言えよ、サルア」
「ッ、お……」
 腰が抜けたのか、壁に背を預けてその場に座り込みながら、男は、
「お、おれに、……やれとは、言ってない、んだ……が」
 震える声で言った。

「……お前がショック受けてんじゃねえよ! 泣くなよ! 俺の! やられた側の! 立場はどうなる!!」
「お前は自業自得だろうが舌まで入れさせやがって! 責任取れ!!」
「なんで俺のせいなんだよやったのお前だろ!?」
「やらせたのはてめーだぁああああ!」

ごめん。