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腹を満たすふわふわの

 父の作る朝食が好きだった。
 さして凝っているわけではない。だいたいは、ありあわせの具材をごちゃ混ぜにしてただ砕き(刻んであるとはけして表現してはならないと思える乱雑さだ。眠いのだろう)、油と塩と胡椒で炒めただけ、というしろものがテーブルに乗る。妹はあからさまに嫌な顔をしてそれを口に詰め込む。彼女のつぶやく、めずらしくもぞもぞした不明瞭な文句(眠いのだろう)に朝から攻撃を受けることさえなければもっといいのだが、致命的に具材を間違えたりしなければそれこそ間違いのない料理しか作らない父は賢かったと思う。シンプルな味付けしかされていない朝食は、家族の面々と同様に、それほど朝に強くはない自分にとって好ましいものだった。
 平らげたあとにコーヒーがつくのもよい。単に父がコーヒーメーカーに注ぐ湯の量を覚えていないだけかもしれなかったが、家族全員のカップが用意されるのは父が台所に立った朝だけだ。これも幼い妹は嫌がったが、数少ない「大人」ぶれる機会の訪れに、少年であった自分は目を輝かせたものだ。ただし、今日こそなにも入れずに飲もうと頑張って、結局涙目になってこっそり角砂糖を落とすはめになるのも恒例だった。その頃にはコーヒー自体の温度が低くなっていて、砂糖がきちんと溶けずにざりざりとした甘い塊を噛まねばならなくなるのもご愛嬌というものであろう。
 ちびちび舐める苦いコーヒーが冷め切るか否かというあたりで母が起きてくる。
「おはよう」
「おはよう、母さん」
「ん」
 朝の挨拶を小さく済ませてテーブルにつく眠たげな母の前に、父がことりとカップを置く。ありがと、とつぶやく母の声は、薄いカーテン越しに届く朝のやわらかな光の中で、普段よりもいっそう美しく聞こえるのだった。

 そして今、父と同じように、自分もフライパンを振り終えた。皿に盛り付けると胃を刺激する匂いが周囲に広がる。父よりは上手だと自負しているが、妹に見せればきっとあの頃と同じように嫌な顔をするだろう。今、こうしていて思うことは——妹は料理の味を嫌がっていたのではないかもしれないということだ。
(まあ、さすがにあからさまだったよ。父さんも母さんも、そこまで単純な人だと思ってなかったんだけど)
 当時の自分はこの因果関係にまったく気がついていなかったのだが、少女というのはおおむね男に比べて聡く敏感で、時に潔癖なものだと話に聞く。それはいくら身内についてとはいえ同じことだったろう。身内であるからこそ受け入れ難かったかもしれない。——父の朝食を食べてしばらくは母の癇癪に当たったことがないなどと、自分だって一生気が付きたくはなかった。
 だがこうするほかないのだ。これ以外にどうしようというのだ。部屋を整え、朝食を整え、そこへ女王を恭しく迎えるべきである。
 ベッドの中で呻く声に急いで返事をした。